先取特権③ ~動産の先取特権
次の原因による債権を有する者は、債務者の特定の動産について先取特権を有します(民法311条)
① 不動産の賃貸借
不動産の賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務について、その債権者は、賃借人の特定の動産について先取特権を有します(民法312条)。
具体的には、土地の賃貸借の場合、その土地またはその利用のための建物に備え付けられた動産、その土地の利用に供された動産及び賃借人が占有するその土地の果実について、先取特権を有します(民法313条1項)。
建物の賃貸借の場合、賃借人がその建物に備え付けた動産について先取特権を有します(民法313条2項)。
ただし、先取特権により担保される債権の範囲は、敷金により弁済を受ける額が控除されるほか(民法316条)、賃借人の全ての財産を清算することになるときは、先取特権により担保される債権の範囲が限定され、この場合前期、当期、次期の賃料その他の債務と、前期及び当期に生じた損害のみが担保されます(民法315条)。
② 旅館の宿泊
宿泊客が負担すべき宿泊料及び飲食料に関して、その債権者は、その旅館にあるその宿泊客の手荷物について先取特権を有します(民法317条)。
③ 旅客または荷物の運輸
旅客又は荷物の運送費及び付随の費用に関して、その債権者は、運送人の占有する荷物について先取特権を有します(民法318条)。
④ 動産の保存
動産の保存のために要した費用または動産に関する権利の保存、承認もしくは実行のために要した費用に関して、その債権者は、その動産について先取特権を有します(民法320条)。
⑤ 動産の売買
動産の代価及びその利息に関して、その債権者は、その動産について先取特権を有します(民法321条)。
⑥ 種苗又は肥料の供給
種苗または肥料の代価及びその利息に関して、その債権者は、その種苗または肥料を用いた後1年以内にこれを用いた土地から生じた果実について先取特権を有します(民法322条)。
⑦ 農業の労務
農業の労務に従事する者の最後の1年間の賃金に関して、その者は、その労務によって生じた果実について、先取特権を有します(民法323条)。
⑧ 工業の労務
工業の労務に従事する者の最後の3か月の賃金に関して、その者は、その労務によって生じた製作物について、先取特権を有します(民法324条)。
同一の動産について、動産の先取特権が複数発生する場合、その優先権は
第1順位 不動産の賃貸借、旅館の宿泊、旅客または荷物の運輸の先取特権
→第2順位 動産の保存の先取特権
→第3順位 動産の売買、種苗又は肥料の供給、農業の労務及び工業の労務の先取特権
という順序となります(民法330条1項)。
ただし、優先する順位の先取特権者は、その債権を取得した時点において、後順位にあたる先取特権者があることを知っていたときは、その先取特権者に対して優先権を行使することができません(民法330条2項)。
また、果実については、第1順位は農業の労務に従事する者に、第2順位は種苗または肥料の供給者に、第3順位は土地の賃貸人に属するとされています(民法330条3項)
先取特権と、動産の質権とが競合する場合には、動産質権者は、不動産の賃貸借、旅館の宿泊、旅客または荷物の運輸の先取特権者と同一の権利を有します(第1順位と同等、民法334条)
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