占有権

占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得することができる権利であり(民法180条)、社会秩序維持のため、占有という事実状態を保護するものです。

動産の占有を取得することの効果として、即時取得というものがあります。

これは、取引行為によって、平穏に、かつ公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ過失がないときは、即時にその動産の権利を取得するというものです(民法192条)。

ただし、その動産が盗品または遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難または遺失の時から2年間、占有者に対してその物の回復を請求することができます(民法193条)。更にその例外として、占有者が、盗品または遺失物を、競売もしくは公の市場において善意で買い受けたとき、または、その動産と同種のものを販売する承認から善意で買い受けたときは、被害者または遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その動産を回復することができません(民法194条。占有者が古物商および営業質屋の場合を除きます)。

また、所有の意思をもって、一定期間占有を継続することで、取得時効(民法162条)の効果があります。これは、ある者が他人の物を一定期間継続して占有しているという事実が有る場合に、その者にその物の所有権を与えるという制度です。この「占有の継続」について、民法は、前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有はその間継続したものと推定するとしています(民法186条)。

占有者は、その占有を妨害されたときは、妨害されている間、又は妨害が止んだ後1年以内であれば、訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができます(占有保持の訴え、民法198条、民法201条1項)。ただし、工事により占有物に損害が生じた場合ですと、工事に着手したときから1年を経過したとき、または、その工事が完成したときは、この請求をすることはできません(民法201条1項但書)。

占有を妨害されるおそれがあるときは、妨害の危険がある間、訴えにより、その妨害の予防または損害賠償の担保を請求することができます(占有保全の訴え、民法199条)。工事により占有物に損害を生じるおそれがあるときについては、占有保持の訴えと同じ制限があります(民法201条2項後段)。

占有を奪われたときは、奪われたときから1年以内であれば、訴えによりその物の返還及び損害の賠償を請求することができます(占有回収の訴え、民法200条)。

これらの占有の訴えは、それが正当な権利に基づくものであるかどうかは問題とならず、占有という事実状態を保護しようとするものですので、本来の権利関係、例えば所有権に基づく請求を別に提起することができますし(民法202条第1項)、他方で、占有の訴えに対して所有権などの本来の権利関係を主張しても、有効な反論とはなりません(民法202条第2項)。

占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅します。ただし、占有者が占有物の所持を失った場合であっても、占有回収の訴えを起こして勝訴し、占有を回復した場合には、占有権を失うことはありません。


ひいらぎ法律事務所

弁護士 渡辺 慎太郎 (福島県弁護士会所属) 福島市にある法律事務所です TEL.024-572-6173 FAX.024-572-6175