時効の利益の放棄と時効援用権の喪失

 時効の「援用」とは逆に、時効の利益を受けないという意思を表示することもできます。これを「時効の利益の放棄」といいます。

 時効の利益の放棄は、時効期間が完成する前にあらかじめすることはできません(民法146条)。

 時効期間が完成した後に、時効の利益を放棄することができることとなりますが、この時効の利益の放棄も、時効の援用と同様に、他の者に影響を及ぼさないとされています(相対効)。例えば、主たる債務者が時効の利益を放棄した場合、その効力は保証人に対しては及びません(大審院大正5年12月25日判決)。

 また、援用権者が時効の利益を受けないという意思表示をしていない場合でも、裁判例は、債務につき消滅時効が完成した後に、債務者が債務の承認をした場合は、時効完成の事実を知らなかったときでも、以後、その完成した消滅時効の援用をすることは許されないとしています(最高裁昭和41年4月20日判決)。これを時効援用権の喪失といいます。

 この場合、債務者が時効完成後に債務を承認した時点から、新たに進行します(更新)。したがって、再び時効期間が経過すれば、債務者は再度完成した時効を援用することができます(最高裁昭和45年5月21日判決)。

ひいらぎ法律事務所

弁護士 渡辺 慎太郎 (福島県弁護士会所属) 福島市にある法律事務所です TEL.024-572-6173 FAX.024-572-6175