時効の更新事由

時効の更新を生じる事由(その過程において完成猶予が生じることもあります)として次のものが定められています。


1 裁判上の請求(民法147条)

 裁判上の請求(訴えの提起)、支払督促、調停申立て等を行った場合には、訴えの提起や申立をした時点(訴状等を裁判所に提出した時点)で、その手続が確定するまで、時効は完成しないという効力が生じます(完成猶予)。なお、その後、訴えの取下げなどにより権利が確定することなく手続が終了した場合には、その手続終了の時から6か月を経過するまでの間、時効は完成しません(完成猶予)。

 判決の確定などで権利が確定したときは、時効は、手続が終了した時から新たに進行します(更新)。

 この裁判上の請求については、権利の一部を請求した場合の問題があります。債権の一部について訴えを提起して権利の確定を得た場合、その確定した一部については時効が更新しますが、その残りの部分については更新の効力がありません(最高裁昭和34年2月20日判決)。ただ、その残りの部分について、判例上、一般に「裁判上の催告」という効力が認められています。

 この「裁判上の催告」とは、手続の終了まで催告(民法150条。後に詳しく述べます)が継続しているとされるものです。

 なお、この「裁判上の請求」に関して、裁判例は、相手方の提起した債権不存在の訴えに対して請求棄却の判決を求めたときも、裁判上の請求として消滅時効の完成猶予や中断の効力を生じるとしていますが(大審院昭和14年3月22日判決)、他方で、債権者から受益者に対する詐害行為取消の訴えの提起は、その前提となる債権について、消滅時効の完成猶予や更新の効果を生じないとしています(最高裁昭和37年10月12日判決)。


2 強制執行(民法148条)

 強制執行、担保権の実行についても、裁判上の請求と同様、申立をした時点で、その手続が確定するまで、時効は完成しないという効力が生じます(完成猶予)。その後、申立の取下げや取消しなどにより権利が確定することなく手続が終了した場合には、その手続終了の時から6か月を経過するまでの間、時効は完成しないことも同様です(完成猶予)。

 執行行為が終了したときは、その終了した時から時効が新たに進行します(更新)。強制執行において執行不能で終了した場合でも、同様に、執行終了の時点で時効が更新するとされています(更新)。

 なお、債権者から物上保証人に対して担保権実行としての競売申立がなされたような場合、債務者に対する手続では無いため、債務者に対して通知をした後でなければ時効の完成猶予または更新の効力を生じません(民法154条)。この場合、競売裁判所がその競売開始決定をしたうえ、競売手続の利害関係人である債務者に対して決定を送達した場合には、その送達の時点から、完成猶予または更新の効力を生じることとなります(最高裁昭和50年11月21日判決)。


3 承認(民法152条)

 義務者が権利を承認したときは、その時点から時効が新たに進行します(更新)。債務を負担していることを口頭であるいは書面で認めることが典型的な承認ですが、債務の一部の弁済が債務全体の承認にあたるとされています。

 裁判例によれば、同一の当事者間に数個の金銭消費貸借契約に基づく各元本債務が存在する場合において、借主が弁済を充当すべき債務を指定することなく全債務を完済するのに足りない額の弁済をしたときは、当該弁済は、特段の事情のない限り、各元本債務の承認として消滅時効を更新する効力を有するとされています(最高裁令和2年12月15日判決)。

ひいらぎ法律事務所

弁護士 渡辺 慎太郎 (福島県弁護士会所属) 福島市にある法律事務所です TEL.024-572-6173 FAX.024-572-6175