時効の更新と完成猶予
時効制度は、一般に、永続した事実状態がある場合に、その事実状態に基づく社会取引の安全を確保する必要があること、長い期間の経過によりその事実状態にかかる権利の証拠関係が不明瞭となっている場合に問題が生じることを回避する必要があること、他方で、権利を積極的に行使されていない場合に、その権利を法律上の保護する必要は乏しいことから、永続した事実状態をそのまま保護していくことを趣旨とするとされています。
従って、相手方に権利があることを積極的に承認している場合や、裁判所の判決で権利関係が明確にされた場合、訴訟や強制執行など権利者としての確定的な権利行使があった場合は、それまでの事実状態を保護する必要性はないということになります。
このような場合、それまでの時効期間の経過が一度リセットされ、あらためて時効期間が最初から進行するとされます。これを「時効の更新」といいます。
また、時効期間の経過がリセットされる「時効の更新」のほか、リセットはされないが時効が完成しないものとして「時効の完成猶予」があります。完成猶予事由が継続している期間と、その事由が終了した後に新たな権利行使をするのに必要な間(事由によって6か月あるいは3か月の期間が定められています)は、時効期間が満了しても、時効が完成しないものとして、権利行使をする機会を確保するものです。
時効の更新や時効の完成猶予の効果は、その事由が生じた当事者及びその承継人の間のみに効力があるとされています(相対効)。
たとえば、債務の消滅時効で、保証人に対してのみ時効を更新したときは、主たる債務者に対しては更新の効果を生じません。ただし、債務者に対して時効を更新したときは、「主たる債務が更新すれば保証債務も更新する(付従性)」の原則により保証債務も消更新されます。この意味において、保証人に対する更新行為がなくても、保証人の保証債務は更新されることなります。
また、裁判例によれば、保証人が主たる債務者に対して取得した求償権について消滅時効の完成猶予や更新の事由がある場合であっても、共同保証人間の求償権についての消滅時効の完成猶予や更新の効力は生じないとされています(最高裁平成27年11月19日判決)。
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