時効の援用とその効果
時効制度による利益を受けるためには、その利益を受ける者(多くの場合は当事者)が、時効の利益を受ける意思を表示する必要があります(民法145条)。これを「時効の援用」といいます。
当事者が時効を援用しない場合に、裁判所が時効の成立を前提として判断をすることはできません(民法145条)。
債務の消滅時効の場合、債務者本人が消滅時効を援用できることは当然ですが、このほか、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者も、債務の消滅時効を援用することができます(民法145条)。
また、裁判例によれば、債権者は、その債務者が他の債権者に対して負担する債務につき、自分の債権を保全するのに必要な限度で、債務者に代位してその消滅時効を援用することができる(最高裁昭和43年9月26日判決)、また、詐害行為の受益者は、詐害行為取消権を行使している債権者の債権(被保全債権)の消滅時効を援用することができる(最高裁平成10年6月22日判決)とされています。
他方で、裁判例によれば、土地の所有権を時効取得すべき者から、その土地上に同人の所有する建物を賃借している者は、土地の取得時効を援用することはできないとされています(最高裁昭和44年7月15日判決)。
数人が時効を援用できる場合、そのうちの1人が時効を援用した場合に、その援用は他の者に影響を及ぼさないことが原則です(これを時効援用の相対効といいます)。
たとえば、債務の消滅時効で、債務者と保証人がいずれも消滅時効を援用できるときで、保証人のみが消滅時効を援用した場合、債権者と保証人の間では債務者の債務が消滅するため、債権者から保証人に対する請求はできないこととなりますが、債務者が消滅時効を援用しなければ、債権者と債務者の間では債務者の債務が引き続き存続しているため、債権者から債務者に対する請求はできることとなります。
ただし、債務者が保証人よりも先に債務の消滅時効を援用した場合、「主たる債務が消滅すれば保証債務も消滅する(消滅の付従性)」の原則により保証債務も消滅することとなり(付従性)、この意味において、保証人が消滅時効を援用しなくても、保証人の保証債務は消滅することとなります。
時効による債権消滅の効果は、時効期間の経過とともに確定的に生じるものではなく、時効が援用されたときに初めて確定的に生じるものとされています(最高裁昭和61年3月17日判決)。
また、時効の効果は、時効期間の最初に遡ります(民法144条)。このこととの関連で、裁判例上は、取得時効の完成の時期は、必ず時効の基礎たる事実の開始した時を起算として決定すべきものであって、時効援用者において起算点を選択し、時効完成の時期を早めたり遅らせたりすることはできないとしています(最高裁昭和35年7月27日判決)。
0コメント