売買③ 手付(手付金)について

売買契約を締結する際、特に売買代金額が大きく、代金決済が後日となるときなどに、その履行を保証するため、買主から売主に対して、「手付(手付金)」と呼ばれる、売買代金額の1割~2割程度の金員が支払われることがあります。

民法は、買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄して契約を解除することができ、また、売主は手付の倍額を現実に提供して契約を解除することができると定めています(民法557条1項本文)。

また、この手付による解除権を行使したことによって、相手方から損害賠償請求がなされることはないと定めています(民法557条2項、545条4項)。

買主としても、売主としても、特に別の合意をしていなけければ、手付の金額分だけの損失をもって契約を解除することができる(解約手付)ということになります。


ただし、相手方が契約の履行に着手した後は、手付に基づく解除は認められません(民法557条1項但書)。

前記の民法557条1項本文の規定によれば、契約締結に際して手付の支払があった場合には、当事者双方は、特に当事者間に定めがない限り、履行がなされるまでは自由に契約を解除する権利を有していることになります。

しかし、当事者の一方が履行に着手したときは、その当事者は、履行の着手に必要な費用を支出しただけでなく、契約の履行に多くの期待を抱くことになりますから、そのような段階に至っても相手方から契約が解除されたとすると、履行に着手した当事者は不測の損害を被ることになるため、民法は、相手方が履行に着手した後は、手付に基づく解除は認められないと定めているものです。

ここでいう「履行に着手した」とは、「客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指す」とされており(最高裁昭和40年11月24日判決・民集3巻10号437頁)、単なる履行の準備行為というべき段階では「履行に着手した」とはいえないとされています。

ひいらぎ法律事務所

弁護士 渡辺 慎太郎 (福島県弁護士会所属) 福島市にある法律事務所です TEL.024-572-6173 FAX.024-572-6175