株主との合意により譲渡制限株特定の株主との合意により譲渡制限株式を相対取引で取得する場合

「通知按分取得制度」の特別規定として、株主総会の特別決議において、

 ①取得する株式の数

 ②株式の取得対価として交付する金銭等の内容およびその総額

 ③株式を取得することができる期間(1年以内)

に加えて、

 ④特定の株主に対して自己株式の取得条件の通知を行うこと

を決定することで、その特定の株主に対してのみ、取得条件を通知することとすることができます(会社法160条1項)。

通知按分取得制度の場合は株主総会の普通決議で足りましたが、特定の株主に対して取得条件を通知して特定の株主のみから自己株式の取得を図る場合には、株主総会の特別決議を要することに留意しておく必要があります(会社法309条2項2号)。

また、この通知の対象となる特定の株主は、上記①~④を定める株主総会において議決権を行使することができません(会社法160条4項本文)。

株主総会の特別決議により特定の株主から自己株式を取得しようとする場合でも、特定の株主以外の株主が、自己も特定の株主に加えたものを株主総会の議案とするよう請求できる権利が保障されています。

具体的には、会社が株主総会特別決議において

 ④特定の株主に対して自己株式の取得条件の通知を行うこと

を定めようとする場合、その株主総会の日の2週間前までに、会社から株主全員に対して、自己も特定の株主に加えたものを株主総会の議案とするよう請求できることを通知しなければならず(会社法160条2項)、通知を受けた株主は、株主総会の5日前までに、会社に対してその請求をすることができます(会社法160条3項)。

この請求がなされた場合、会社は、株主総会において、請求のあった株主も、「特定の株主」に加えたものをもって株主総会の議案としなければなりません。

上記の株主総会特別決議を経て、取締役会(取締役会設置会社の場合)において、具体的な自己株式の取得条件として

 ①取得する株式の数

 ②株式1株の取得対価として交付する金銭等の内容および数もしくは額またはこれらの算定方法

 ③株式の取得対価として交付する金銭等の総額

 ④株式の譲渡しの申込期日

を決定し(会社法157条)、その内容を特定の株主に通知します(会社法158条1項、160条5項)。

通知に対して、申込期日までに特定の株主から譲渡しの申込のあった株式について、会社はその譲受けを承諾したものとみなされます(会社法159条2項)。


なお、あらかじめ、定款において、株主が売主追加請求権を有しない旨を定めておくことで、株主全員への追加請求権の通知を省略することは可能ですが(会社法164条1項)、このような定款の定めを設けるためには、株主全員の同意を必要とします(会社法164条2項)。

また、会社が自己株式を取得する相手が、従前の株主の相続人である場合には、他の株主に対しては売却の機会が保障されておらず、他の株主は、特定の株主に自己を加えたものを株主総会の議案とすることの請求をすることができませんし、会社としても、そのような請求ができることの通知をする必要はありません(会社法162条)。ただし、その相続人が、株主総会において当該株式について議決権を行使した後は、通常どおり、他の株主に対しても売却の機会が保障されています(会社法162条1項2号)。

ひいらぎ法律事務所

弁護士 渡辺 慎太郎 (福島県弁護士会所属) 福島市にある法律事務所です TEL.024-572-6173 FAX.024-572-6175