賃貸借⑥ 敷金

不動産、特に建物の賃貸借契約において、賃借人が賃料その他の債務を担保する目的で、あらかじめ賃貸人に金銭を交付することがあり、これを「敷金」といいます(民法622条の2)。

賃貸借が終了し、かつ、賃貸人が賃貸物の返還を受けたときは、賃貸人は、賃借人に対し、受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭債務の額を控除した残額を返還しなければなりません(民法622条の2第1項一号)。

この「かつ、賃貸人が賃貸物の返還を受けたとき」とする規定によれば、敷金の返還請求権は、賃貸借終了時ではなく、明渡時までに生じる債務を担保するものであり、賃貸借契約が終了した時点ではなく、明渡が完了した時点で、賃借人において初めて敷金の返還請求権を確定的に取得するということになります。

賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭債務を履行しないときは、敷金をその金銭債務の弁済に充てることができます。ただ、これは賃貸人側の意思によるものであり、賃借人の方から敷金を自己の金銭債務の弁済に充てることを請求することはできません(民法622条の2第2項)。


賃貸人や賃借人が変動した場合について、賃借人が適法に賃借権を譲り渡したときは、賃貸人は、賃借人に対し前記と同様の敷金残額を返還しなければなりません(民法622条の2第1項二号)。

また、賃貸の目的不動産が譲渡され、賃貸人が変動した場合には、目的不動産の譲受人(新しい賃貸人)が、敷金の返還債務を承継するものとされています(民法605条の2第4項)。

この場合、新しい賃貸人に移転する敷金の範囲について、判例(最高裁昭和44年7月17日判決・民集23巻8号1610頁)は、旧所有者の下で生じた延滞賃料等の弁済に敷金が充当された後の残額についてのみ敷金返還債務が新所有者に移転するとしていますが、実務上は、そのような充当をしないで全額の返還債務を新しい賃貸人に移転させることも多いとされており、敷金全額が移転するのか、未払賃料等に充当した残額が移転するのかは、個別の事例ごとの合意あるいは解釈に委ねられています。

ひいらぎ法律事務所

弁護士 渡辺 慎太郎 (福島県弁護士会所属) 福島市にある法律事務所です TEL.024-572-6173 FAX.024-572-6175