賃貸借⑤ 賃貸人の義務、賃借人の義務
賃貸人としての契約上の義務
賃貸人は、契約期間中、賃借人が賃貸物を使用収益できるようにする義務を負います(民法601条)。このため、賃貸人は、賃貸物の使用収益のために必要な修繕をする義務を負うものとされています(民法606条1項)。
ただし、賃借人の落ち度によって修繕が必要となった場合は、賃貸人はその修繕義務を負うことはありません(民法606条1項但書)。
賃貸人は、賃借人が賃貸人が負担すべき必要費を支出したときは、その費用の償還義務を負います(民法608条1項)。賃貸人が負担すべき必要費としては、例えば、排水が不良であったことから排水配管工事を行った費用、床、壁、天井及び階段、ドアの破損補修費用、雨水の浸入を防ぐための外壁修復工事費用、雨漏りを防ぐための屋上補修費用などが挙げられます(名古屋地裁昭和62年1月30日判決、判例時報1252号83頁)。
また、賃貸人は、賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸借契約終了時にその費用の償還義務を負います(民法608条2項)。ここでいう有益費としては、賃借物の改良のために支出された費用であり、例えば、プロパンガスを都市ガスに改める工事費用、壁・天井のクロス張工事費用などが認められた事例があります(名古屋地裁昭和62年1月30日判決、判例時報1252号83頁)。
賃借人としての契約上の義務
賃借人は、賃貸人に対して賃料の支払義務を負います。
一般には賃貸借契約書において賃料の支払時期を定めますが、支払時期のない場合には、動産、建物及び宅地については毎月末が支払時期となり、宅地以外の土地については毎年末が支払時期となります(民法614条)。
また、賃借人は、善良なる管理者の注意(一般的な社会人として取引をする上で要求される程度の注意)をもって賃借物を保管する義務を負います(民法400条)。
賃借人が賃借物を使用収益するに際しては、その賃借物の用法に従わなければなりません(民法616条、594条1項)。
賃借物が修繕を要するとき、または賃借物について権利を主張する者がいるときは、賃借人は遅滞なくその旨を賃貸人に通知しなければなりません(民法615条)。
前記のとおり、賃貸人は、賃貸物の使用収益のために必要な修繕をする義務を負いますが(民法606条1項)、賃貸人が賃貸物の保存のために必要な行為をしようとするときは、賃借人はこれを拒むことができません(民法606条2項)。
賃借人は、賃貸借契約終了時に賃借物を返還する義務を負いますが(民法601条)、その際、賃借物を受け取った後に生じた損傷があるときは、その損傷を原状に回復する義務を負います(民法621条)。
ただし、通常の使用及び収益によって生じた損耗や経年変化については、賃借人が回復義務を負うことはありませんし(民法621条)、その損傷が賃借人の落ち度によるものではない場合も、賃借人が回復義務を負うことはありません(民法621条但書)。
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