詐害行為取消権の具体例① 贈与がなされた場合
贈与は債務者の財産を一方的に減少させる行為であり、詐害行為とされる典型例です。また、贈与を受ける側も、特段の事情がないのに財産の贈与を受けること自体が不自然ともいえます。
受益者からは債務者の資力不足の認識がなかったとして、詐害意思の不存在が主張されるケースが極めて多いところですが、特に同居している親族に対する贈与などについては、受益者において詐害行為であることを認識していたことが推認されるとして、詐害行為取消が認められる事例も多いところです。
しかし、中には贈与であっても詐害行為取消が認められない事例もあります。
贈与が詐害行為にあたるかが争われた近時の判例として、札幌地裁平成27年11月13日判決があります。この事案は、債務者が時価を超える担保権設定済みの、いわゆるオーバーローンの不動産を妻に贈与し、その後担保権の登記が抹消されたうえで、妻に贈与の登記がなされたことにつき、債権者が詐害行為取消を求めたという事案です。
裁判所は、詐害行為にあたるかどうかの判断は登記手続時点ではなく譲渡行為時点を基準とすべきとしたうえで、贈与時に不動産はオーバーローン状態であったと認めるから、同不動産の贈与により、一般債権者である原告が害されたとはいえないとして、詐害行為取消を認めませんでした。
債権者は、贈与時において担保権抹消が予定されていたと推認されるから、不動産は贈与時においてオーバーローンではなかったと主張していましたが、裁判所は、贈与時に担保権登記を抹消することが予定されていたとまでは認められないと判断しています。
贈与時において担保権抹消が予定されていたことを示すより強い事情があったとすれば、裁判所の判断は異なるものになったかもしれません。
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