遺産とされる範囲
相続人の範囲が定まったところで、次に、相続人全員において、遺産分割の対象となる遺産の範囲(遺産としてどのような財産があるか)について合意する必要があります。
遺産分割の対象となる財産としては、不動産、預貯金、現金、株式、貴金属や着物等の動産などがあります。
ただし、遺言書によって、被相続人が分割の仕方が指定した財産については、遺産分割の対象とはなりません。
遺産の範囲に関して、金銭債権や金銭債務の取扱いについては注意が必要です。
金銭債権(ただし、預貯金債権は除きます)は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるとされており(最高裁昭和29年4月8日判決)、通常、相続人間で分割を協議する対象となりません。
相続人としては、金銭債権のうち自分が相続した範囲について、各々が債務者に対して請求することとなります。
これに対して、預貯金債権については、従来は一般の金銭債権と同様に相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるものとして取り扱われていましたが、最高裁平成28年12月19日判決により、「相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることなく、遺産分割の対象となる」と判示され、その後、遺産分割の対象となる財産として取り扱われることとなりました。
また、金銭債務(マイナスの財産)は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて各相続人に承継されるため(最高裁昭和34年6月19日判決)、相続人間で分割を協議する対象となりません。
相続人として、金銭債務(マイナスの財産)を相続することを回避したいと考えるのであれば、取得額なしとする遺産分割協議をするのではなく、相続放棄の手続をとる必要があります。
遺産の範囲に関して、被相続人の生命保険の取扱いについても注意が必要です。
被相続人が特定の者を保険金受取人に指定していた場合、保険金は保険金受取人の固有の財産となり、遺産分割の対象とはならないとされています。
ただ、特定の者のみが多額の生命保険金を受領し、他の共同相続人との間に著しい不公平が生じるような場合には、そのような生命保険金を受領した者について特別受益があったものとして、具体的な取得額が調整されることがあり得ます。
相続開始後の遺産から生じた収益、例えば不動産の賃料、預金利息、株式の配当などについては、相続財産そのものではなく、遺産とは別個の共同相続人の共有財産であり、金銭債権であれば各共同相続人が法定相続分に従って当然に持分を取得する(遺産分割を要しない)とされていますが、共同相続人全員が遺産とすることについて合意したうえで、遺産分割の対象とされることも多くあります。
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