詐害行為取消権の具体例② 特定の債権者に対する弁済あるいは代物弁済、担保提供

弁済と担保提供行為

弁済は債務を消滅させる行為であり、弁済した金額の分だけ負債も減少することとなるので、債務者の総財産の額は変わらないことになります。判例においては、弁済は原則として詐害行為とならないが、債務者が一債権者と通謀し、他の債権者を害する意思をもって弁済したような場合にのみ、詐害行為となるとされています。


担保提供行為についても、債務者の債務総額から被担保債権相当額が優先弁済される債権として外れると考えると、弁済に類似し、総財産の額は変わらないことになります。ただし、弁済期における弁済が債務者の義務であるのに対し、担保提供行為は債務者の義務ではなく、義務がないにも関わらず特定の債権者のみを優遇する点において、詐害行為となるべき要素があるといえます。

また、担保提供行為については、既存の債権への担保提供と新規の借入のための担保提供とでは性質が異なると考えられます。既存の債権への担保提供と異なり、新規の借入のための担保提供の場合、新規に借り入れた金銭の増加があるからです。


民法上、特定の債権者に対する弁済、担保提供行為の特則として424条の3が設けられています。この特則では、まず、債務者がした既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為について、①債務者が支払不能の時に行われたものであること、②債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであることの2つの要件を全て満たす場合に、債権者は詐害行為取消請求をすることができると定められています。

そして、債務者の義務に属しない、または債務の期限が到来していないものにかかる弁済、担保提供については、支払不能になる前30日までの行為について、詐害行為取消請求が可能とされています(民法424条の3第2項)。


代物弁済

代物弁済も弁済と同様、債務を消滅させる行為ですが、弁済の場合よりも、債務と代物弁済目的物の価値が相応するものであるかが問題となりやすいところです。

民法上、過大な代物弁済の特則として424条の4が設けられています。この特則では、①受益者の受けた給付の価額がその行為によって消滅した債務の額より過大であるものについて、②424条の要件に該当するときは、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分について、債権者は詐害行為取消請求をすることができると定められています。

これに対して、相当な代物弁済の部分は、その方法が義務に属しない債務消滅行為ですので、前述の民法424条の3第2項により判断されることになるでしょう。

ひいらぎ法律事務所

弁護士 渡辺 慎太郎 (福島県弁護士会所属) 福島市にある法律事務所です TEL.024-572-6173 FAX.024-572-6175